子どもが文字を読むようになるまでのプロセスについて書かれているところがおもしろかった。
1. まだ文字を読めない子ども
世話をしてくれる人のひざの上で読み聞かせをされた子どもは、読み聞かせという行為と、愛されているという実感とを結びつけて覚えるようになる。この体験が、読み書きにつながる下地となる。
この時期にどれだけ話し言葉や語彙に触れたかが、のちの読みの力を大きく左右する。
2. 読字初心者
多くの子どもは、5・6歳のころに「ページに並んだ言葉にはなにか意味があるらしい」とぼんやり気づきはじめ、文字を読むようになっていく。
子どもは最初、文字をひとつの絵柄として丸ごと記憶している。やがて「文字は音と結びついている」というルールに気づき、文字を音に変換して解読できるようになる。
文字が意味にたどり着くまでには、ふたつのルートがある(認知心理学の二重経路モデル)。
- 単語の見た目から、記憶にある単語を直接引き出す語彙ルート
- 文字と音の規則を当てはめて、耳で聴いたことのある言葉と結びつけて意味を特定する音韻ルート
文字を見た瞬間、両方のルートが同時に動きだす。見慣れた単語なら語彙ルートのほうがはやい。未知の単語や意味のない文字列では、音韻ルートが必須となる。
子どもが文字の読み方を習得する初期段階では、まずこの音韻ルートを集中的に使って文字を音へと変換し、すでに耳から知っている語彙と照合していく。
この段階では、音韻だけでなく、つづり、意味、形態素(意味を持つ最小の単位)、文法の知識が並行して育つ。
3. 解読に取り組んでいる読み手
一文字ずつの拾い読みから脱し、すらすら読めるようになりつつある段階。頻出するつづりのパターンをまとまりとして覚え、処理が速くなる。
語彙が豊かな子は、文脈から新しい単語の意味をつかみ、さらに語彙を増やす。語彙や文法の基盤が乏しい子は推測がうまく働かず、教材が難しくなるにつれ遅れていく。この差が広がる現象を「マタイ効果」と呼ぶ。
4. 流暢に読解する読み手
おおむね小学4年生頃(9〜10歳)から青年期にかけて発達する。「読むために学ぶ」から「学ぶために読む」へ移行する段階。
単語の解読に追われなくなることで、考える時間が生まれる。その時間を使って、文章の構造や著者の意図を理解する。推論、比喩や皮肉の理解、登場人物への感情移入がこの段階で育つ。
意味が通らないときに立ち止まり、読み直す力も身につく。
5. 熟達した読み手
単語を目にしてから理解するまでを、およそ0.5秒以内で完了させる。具体的には以下のステップを踏んでいる。
■ 0~0.1秒 注意の方向づけ
- ほかにしていたこといっさいから注意をそらす
- 注意を新しい焦点に移す(文章に注目する)
- 新しい文字と単語に注目する
■ 0.05~0.15秒 文字の認識
- 眼球を素早く動かして注視する(サッカード)
- 注視中、単語を認識するためのニューロン群(セル・アセンブリ)が発火
- 文字や頻出するつづりのパターンを認識する。1に戻る
■ 0.1~0.2秒 文字と音の接続
語彙ルートまたは音韻ルートを通じて、単語の意味や音の記憶へアクセスする
■ 0.2~0.5秒 意味ネットワークの活性化
0.2秒前後で意味情報を検索する。意味が予想と食い違う場合は0.4秒付近で情報の追加・再解釈を続ける。
文章に違和感をおぼえて読み直すとき、行間や比喩、文脈全体の意図をくむために右半球の推論ネットワークが呼び出される。
熟達した読みは完成形ではない。読む経験を重ねるほど、生涯にわたって発達し続ける。
